NSAIDsにより胃腸障害が起こるメカニズム
ロキソプロフェン、ジクロフェナク、アスピリンのようなNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)に分類される解熱鎮痛剤は胃腸障害を引き起こす事があります。

これは、吸収されたNSAIDsが全身(主に血管内皮細胞や腎臓)、および局所(胃粘膜上皮細胞や腸管上皮細胞)において、細胞内の主に小胞体に存在するCOX-1を阻害し、胃粘膜保護作用のあるプロスタグランジン(PGE2やPGI2)の産生を低下させる事に起因します。
覚え方
胃粘膜保護作用のあるプロスタグランジンは、「胃に(E2)良いあいつ(I2)」と覚えましょう!
胃で吸収されたNSAIDsが胃障害を引き起こすメカニズム

前述の通り、NSAIDsはCOX-1を阻害しPG産生を低下させますが、上図は胃粘膜上皮細胞で吸収されたNSAIDsが胃障害を引き起こすメカニズムを示したものです。
胃内の酸性環境では以下の化学式の平衡が左に傾き、粘膜から吸収されやすい分子型の割合が多くなります。
その結果、胃で吸収されるNSAIDsが増えますが、吸収された細胞内は中性環境であり、今度は平衡が右に偏り(イオン型濃度が増え)、胃粘膜細胞に蓄積されます。
胃粘膜細胞に取り込まれたNSAIDsは、局所的にCOX-1を阻害して防御機能を低下させるとともに、直接的な細胞障害を引き起こし、粘膜障害を誘発します。
PPIが胃障害を軽減する理由
プロトンポンプインヒビター(PPI)が胃障害を軽減する機序は2つあります。
まずひとつめに、PPIは攻撃因子である胃酸の分泌を抑制する事により胃障害を軽減します。
ふたつめに、PPIは胃で吸収されるNSAIDsの量を減らして、胃障害を軽減します。
具体的には、まずPPIが胃酸分泌を抑制することで胃内pHを上昇させ、以下の化学式の平衡を右へ傾けます。
\[ \text{HA} \rightleftharpoons \text{H}^+ + \text{A}^- \]例えば、pKa(酸解離定数)=4.2のロキソプロフェンが①通常の胃内環境(pH1)と②PPI服用後の胃内環境(pH4)で分子型が占める割合を以下のヘンダーソンハッセルバルヒ式で計算した結果、①分子型が99.94%、②分子型が61.3%となります。
このことから、PPIは胃内で分子型ロキソプロフェン(吸収されやすい状態)の割合を低下させることが分かります。
これにより、胃でのNSAIDs吸収を抑え、局所的な胃障害を軽減すると考えられます(下図参照)。

ただしその後、腸で吸収されたNSAIDsが全身(主に血管内皮細胞や腎など)でのPG合成を抑制しますが、血流を介して胃へ供給されるPGが減少する事で引き起こる胃障害は予防できません。
PPIは「腸管障害を軽減する」は間違い?
前述の通り、PPIの併用により胃で吸収されるNSAIDs量を減少させると、腸管から吸収されるNSAIDs量が増加します。
その結果、腸管上皮細胞内でのCOX-1阻害により、腸の粘膜障害を引き起こすリスクがあります。
さらに、PPIは腸内細菌叢の変化を引き起こし、腸のバリア機能を低下させる可能性があるため、かえって腸管障害のリスクを増加させることも考えられています。
参考文献
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- Brune K, & Patrignani P. “New insights into the use of currently available non-steroidal anti-inflammatory drugs.” Journal of Pain Research, 2015; 8: 105-118.
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